国際的なAI規制の潮流と日本の立ち位置
世界がAI規制のあり方を模索する中、日本は独自の道を選択しています。それは、厳格な「ハードロー」のEUと、事業者の自主性に委ねる「ソフトロー」の米国の中間に位置する、イノベーションを重視したアプローチです。
欧州連合 (EU)
ハードロー
世界初の包括的AI規制「AI法」を制定。リスクベースでAIを分類し、禁止・高リスクAIには厳格な義務と高額な罰金を課す「トップダウン型」のアプローチ。
日本
バランス型
「AI推進法」を基盤に、罰則のない自主性重視のアプローチを採用。イノベーションを阻害せず、問題発生時に対応する柔軟な「アクセルとブレーキの両立」を目指す。
米国
ソフトロー
連邦レベルでの包括的な規制は無く、NISTのAIリスク管理フレームワークなど、事業者の自主的な取り組みを促す「ボトムアップ型」のアプローチが中心。
中核となる「AI推進法」の概要
2025年6月に公布された「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(通称:AI推進法)は、日本のAI政策に初めて法的な基盤を与えるものです。
この法律の最大の特徴は、イノベーションを最優先し、事業者の自主性を尊重する点にあります。罰則を設けないことで、企業が萎縮することなく、AIの開発・活用に挑戦できる環境を整備します。
内閣総理大臣を本部長とする「AI戦略本部」を法律で設置し、省庁横断で政策を推進。
厳格な事前規制ではなく、事業者の自主的なリスク管理と事後対応を重視。
政府が総合的・計画的に講じるべき施策を「人工知能基本計画」として策定。
広島AIプロセス等を主導し、国際的なルール形成に積極的に貢献。
日本の多層的AIガバナンス体制
AI推進法は単独で機能するのではなく、既存のガイドラインや国際的枠組みと連携し、多層的なガバナンス体制を構築しています。
レベル1:法的基盤 (ハードロー)
AI推進法
国家戦略の方向性を定め、政府の司令塔機能を強化する法的骨格。
レベル2:実践的指針 (ソフトロー)
AI事業者ガイドライン
法の理念を開発者や利用者の実務に落とし込むための具体的な行動指針。
レベル3:国際的整合性 (ソフトロー)
広島AIプロセス
G7等と連携し、国際的な共通理解と行動規範を形成する協力の枠組み。
社会実装の課題:AI利用率の現状
生成AIの企業利用率の国際比較
日本の企業における生成AIの利用率は、主要国と比較して低い水準に留まっています。これは、技術開発だけでなく、社会全体での受容とリテラシー向上が急務であることを示唆しています。
生成AIを利用しない理由
セキュリティ懸念よりも、「使い方が不明」「必要性を感じない」といったリテラシーや活用のイメージに関する課題が、利用の障壁となっていることが分かります。
未来への投資:AI推進法の重点施策
AI推進法は、日本のAI競争力を高めるため、具体的な推進策を盛り込んでいます。
人材育成と教育振興
数理・データサイエンス教育を全国民に展開し、実践的なAI人材を育成・確保する。
研究開発の推進
基盤モデル開発や各産業分野でのAI応用研究を国家レベルで支援し、技術的優位性を築く。
データ連携と基盤整備
産業や行政の垣根を越えたデータ連携基盤を構築し、質の高い学習データを確保する。